こんにちは。Rich and Green Life 運営者の「Ryu」です。
お店で立派な鉢植えを買うのも良いですが、ふと食べたアボカドやマンゴーの種、あるいはネットで見かけた憧れの多肉植物を種から育ててみたいと思ったことはありませんか?
観葉植物を種から育てる「実生(みしょう)」は、確かに手間や時間はかかりますし、途中で枯れてしまうリスクもあります。しかし、土の中から小さな緑色の芽が顔を出した瞬間の喜びは、何物にも代えがたい感動があります。
「栽培キットを使えば簡単なの?」「いつ蒔けばいいの?」「カビが生えたらどうするの?」といった、初心者の方が抱きがちな疑問や不安。この記事では、私が実際に数々の失敗(全滅や徒長など)を繰り返しながら学んだ経験と、植物生理学に基づいた知識を交えて、実生の奥深い世界へご案内します。

- 実生(種から育てる)ならではのメリットと形状の変化
- 初心者でも挑戦しやすい品種と種の入手ルート
- 発芽率を劇的に上げる土選びと温度管理のコツ
- カビや徒長を防ぐための殺菌と環境設定
観葉植物を種から育てる魅力と基本
「わざわざ種から育てなくても、苗を買えばいいじゃないか」と思うかもしれません。確かに苗から始めた方が楽ですが、種から育てる実生には、購入した苗では決して味わえない特別なメリットと、生物学的な面白さが詰まっています。まずはその基本的な魅力について、少しマニアックな視点も含めてお話しします。
実生なら塊根ができるメリットがある
パキポディウム(グラキリスなど)やアデニウムといった、根元がぷっくりと膨らむ「塊根植物(コーデックス)」において、実生には決定的なアドバンテージがあります。それは、「塊根(Caudex)」がきれいに丸く太るということです。
このメカニズムには「胚軸(はいじく)」という組織が深く関わっています。種から発芽した植物には、双葉と根の間にこの胚軸が存在します。乾燥地帯の植物において、胚軸は水分や栄養(デンプン)を貯蔵するためのタンクとして機能し、成長とともに肥大化して、あの愛らしい徳利型や球状のフォルムを形成します。
一方で、枝を切って発根させて増やす「挿し木(挿し木苗)」には、発生学的にこの胚軸が存在しません。そのため、どれだけ長く育てても根元が太りにくく、寸胴な形になりがちです。挿し木の発根はカルス形成を経て不定根が生じるプロセスであり、実生のような自然な肥大成長とは異なるのです。
つまり、理想的な樹形や「良型」と呼ばれる美しい丸みを帯びた個体を手に入れるためには、種から育てるのが最も近道であり、生物学的に唯一の方法とも言えるのです。

さらに、実生のもう一つの大きな魅力は「遺伝的多様性」です。挿し木は親株のクローン(コピー)ですが、実生株はメンデルの法則に従って両親の遺伝子が組み換えられています。そのため、兄弟株であっても「葉が短い」「刺が強い」「丸くなりやすい」といった個体差が必ず生まれます。数ある苗の中から自分だけの好みの一株を選抜(セレクション)する楽しみは、まさに育種家(ブリーダー)の気分を味わえる、実生ならではの特権と言えるでしょう。
もし、あなたが将来的にガッチリと太い幹を持つ植物を育てたいと考えているなら、実生は最高のスタートラインになります。

アボカドやマンゴーなど果実の種
もっと手軽に、日常の延長で実生を楽しみたい方には、スーパーで買った果実の種を再利用する「キッチンガーデニング(再生栽培)」がおすすめです。特に人気なのがアボカドとマンゴーです。
これらは本来、生ゴミとして捨ててしまうはずのものです。しかし、適切な処理をしてあげることで、立派なインテリアグリーンへと生まれ変わります。「命を無駄にしない」というサステナブルな視点や、ライフスタイルへの共感も相まって、非常に人気が高まっています。
アボカドの実生ポイント
アボカドの種は非常に生命力が強いですが、コツがあります。種を取り出した後、茶色の薄皮についた果肉のヌメリを洗剤などで完全に洗い流すことです。このヌメリには「発芽抑制物質」が含まれているため、残っていると発芽しにくくなります。また、種には上下があり、少し尖っている方が「上(芽が出る方)」、平らな方が「下(根が出る方)」です。これを間違えないように、爪楊枝を刺して水耕栽培(水栽培)にするのが定番のスタイルですね。透明な容器で根が伸びる様子を観察できるのも楽しいポイントです。
マンゴーの実生ポイント
マンゴーの種は、食べた後に残る硬い殻(内果皮)の中に、本当の種子(豆のような形)が入っています。この硬い殻をハサミで切り開き、中の種子を取り出して蒔くことで、発芽率が劇的に向上します。マンゴーには「多胚性」といって、一つの種から複数の芽が出る品種もあり、生命の不思議さをダイレクトに感じることができます。
ただし、これらは本来、熱帯地域で巨木になる植物です。鉢植えで室内で楽しむ場合は、天井に届く前に剪定をするなど、サイズコントロールが必要になることも頭に入れておきましょう。
多肉植物やパキポディウムのおすすめ
「コア・ボタニカル愛好家」への入り口として、私が特におすすめしたいのが、アガベやパキポディウムといった希少な多肉植物・塊根植物の実生です。輸入された完成株(現地球)は、数十万円という高値で取引されることも珍しくありませんが、種子であれば10粒1,000円〜2,000円程度から手に入ります。
この「経済的合理性」は非常に大きな魅力です。もちろん、大きく育つまでには数年の歳月がかかりますが、小さな苗から自分の環境に慣らして育てた株(実生株)は、輸入株よりも日本の気候に適応しやすく、枯れにくいというメリットもあります。
初心者の方におすすめなのは、アガベの「チタノタ」や「オテロイ」という品種です。これらは発芽率が比較的高く、成長スピードも早いため、成功体験を得やすいです。また、パキポディウムであれば「グラキリス」や「ラメリー」が人気です。グラキリスは丸いフォルムが人気ですが、実生難易度は少し高め。ラメリーは非常に強健で初心者向きです。
これらの植物を種から育てる場合、LEDライトやサーキュレーター(扇風機)、ヒートマットといった設備投資はある程度必要になります。しかし、土の配合や光の強さ(PPFD)、水やりのタイミングなどを科学的にコントロールし、自分だけの理想的な「良型個体」を作り上げるプロセスは、一度ハマると抜け出せない「沼」のような魅力があります。
種まきに最適な時期と温度管理
植物の種が発芽するために、最も重要かつ決定的なスイッチとなるのが「温度」です。種を蒔いて水をやるだけでは、温度が足りなければ永遠に芽は出ません。
多くのアガベやパキポディウムなど、熱帯・亜熱帯原産の観葉植物の場合、発芽適温は20℃〜30℃の範囲です。この温度帯になると、種子内部の酵素が活性化し、貯蔵されていたデンプンが分解され、細胞分裂という爆発的な成長エネルギーへと変換されます。
日本の気候で言えば、ゴールデンウィーク明けの5月頃から、気温が下がり始める9月下旬頃までが、特別な設備なしで実生ができるベストシーズンです。しかし、植物好きとしては冬でも種を蒔きたくなるもの。そんな時に活躍するのが、園芸用の「ヒートマット」です。鉢の下に敷くことで底面から用土を温め、地温(Rhizosphere Temperature)を確保することで、冬の室内でも発芽させることが可能になります。
プロのテクニック:変温管理(DIF)
私が実践しているのが、昼と夜で温度差をつける「変温管理」です。原産地の砂漠地帯は、昼は灼熱、夜は冷え込むという環境です。これを模倣し、昼間はライトの熱やヒーターで30℃近くまで上げ、夜は20℃程度まで下げる。この「メリハリ」が、植物の体内時計を刺激し、発芽率の向上やその後の健全な成長を促すと言われています。
必要な土や栽培キットの準備
実生において「土選び」は、成功率を左右する最重要ファクターの一つです。ここで絶対に守るべき鉄則は、「肥料分がなく、無菌で清潔な土を使う」ということです。
発芽したばかりの根は非常にデリケートです。ここに一般的な「花と野菜の土」のような肥料分たっぷりの土を使うと、浸透圧の違いによって根の水分が奪われ、「肥料焼け」を起こして枯れてしまいます。また、有機質(腐葉土や堆肥)が多い土は、カビやコバエの温床になりやすく、免疫のない実生苗にとっては致命的です。
私が推奨する用土の構成は以下の通りです。
- 播種床のベース(下層〜中層): 赤玉土の細粒(さいりゅう)または極小粒。通気性と保水性のバランスが良く、根がしっかりと張ります。使用前にふるいにかけて、微塵(みじん)を抜くことで通気性を確保します。
- 覆土や表層: バーミキュライト。高温で焼成されているため無菌で、保水性が非常に高いです。種を優しく包み込み、湿度を保つのに最適です。
最近では、これらがセットになった「実生用土」や「栽培キット」も販売されていますが、本格的に数をこなすなら、単用土を買って自分で配合した方がコストパフォーマンスは高いかなと思います。100円ショップの土は手軽ですが、稀に保管状況によって虫の卵(キノコバエなど)が混入しているリスクがあるため、デリケートな実生には園芸店で販売されている専用メーカーの用土を使うことを強くおすすめします。
観葉植物の土の配合!失敗しない黄金比と虫がわかない室内用の作り方
観葉植物を種から育てる方法とコツ
ここからは、実際に私が実践している具体的な手順(プロトコル)を解説します。「ただ土に埋めて水をやる」だけでは成功しないのが、希少植物実生の難しさであり、面白さでもあります。科学的なアプローチで生存率を高めましょう。

種のカビ対策と殺菌処理の方法
実生の最大の敵、それは乾燥でも寒さでもなく、「カビ(真菌)」です。特に海外から輸入された種子は、輸送中のストレスや保管状況により、種子の表面にカビの胞子が付着していることが非常に多いです。これらは目に見えませんが、高湿度の環境に置いた瞬間、爆発的に増殖し、種子の中身をドロドロに溶かしてしまいます。
そこで、プロや愛好家の間では常識となっているのが、播種(はしゅ)前の殺菌処理と浸漬(ソーキング)です。
具体的には、「ベンレート水和剤」や「ダコニール1000」といった園芸用殺菌剤を使用します。規定の倍率(ベンレートなら1000倍〜2000倍程度)に希釈した水を作り、そこに種子を半日(12時間)〜1日(24時間)ほど漬け込みます。
この工程には2つの意味があります。
- 殺菌: 種皮表面の病原菌を殺菌し、クリーンな状態にする。
- 吸水: 乾燥して休眠状態にある種子に水を吸わせ、酵素を活性化させて「目覚め」を促す。
さらに、活力剤である「メネデール」を100倍程度で混合することもあります。メネデールは鉄イオン(Fe++)を含んでおり、発芽に必要なエネルギー代謝を助ける効果が期待できます。
注意点:カビの伝染力
カビの繁殖スピードは凄まじいです。一つの種に白い綿のようなカビが生えると、隣の種にも一瞬で移り、数日で全滅することもあります。殺菌剤の使用は「過保護」くらいでちょうど良いのです。もしカビてしまった種を見つけたら、心を鬼にしてすぐにその種を取り除き、周囲にベンレート水をスプレーして拡大を防ぎましょう。
失敗しない種まきのやり方と手順
種子の準備が整ったら、いよいよ種まき(播種)です。以下の手順で行うと、雑菌リスクを減らし、成功率を高めることができます。

Step 1: 用土の熱湯消毒
清潔な用土を用意したつもりでも、空気中の菌や微細な虫が混入している可能性があります。そこで、鉢に土を入れた状態で、沸騰したお湯をたっぷりと注ぎます。鉢底から熱湯が流れ出るまで行い、土全体を熱殺菌します。これにより、立ち枯れ病の原因菌やコバエの卵をリセットできます。土が常温まで冷めるのを待ってから次の工程に進みます。
Step 2: 播種(種まき)
土が十分に湿った状態で、殺菌済みの種をピンセットで一つずつ丁寧に並べます。指で触ると手の雑菌が付くので、必ず清潔な道具を使いましょう。間隔を空けて置くことで、万が一カビが発生した際のリスク分散になります。
Step 3: 覆土(ふくど)の有無を確認
ここで最も重要なのが、土を被せるかどうかの判断です。植物には以下の2タイプがあります。
- 好光性種子(光を好む): パキポディウム、エケベリア、多くの多肉植物など。これらは発芽に光を必要とするため、土を被せず、土の表面に置くだけにします。土に埋めると発芽しません。
- 嫌光性種子(光を嫌う): アボカド、カボチャ、一般的な野菜など。これらは種子の厚さの1〜2倍程度の土を被せます。
事前に育てたい植物がどちらのタイプかを調べておくことが、スタートラインに立つための必須条件です。
発芽後の水やりと光の当て方
種を蒔いた直後の管理方法は、通常の大人の植物とは全く異なります。キーワードは「高湿度」です。
発芽するまでの間は、鉢ごと水を張ったトレイに浸す「腰水(こしみず)」管理を行います。さらに、透明な蓋付きのケース(タッパーや育苗トレー)に入れて密閉し、湿度をほぼ100%に保ちます。種子は一度吸水した後に乾燥すると、細胞が死滅してしまいます。発芽モードに入った種子にとって、乾燥は即ち「死」を意味するのです。
しかし、発芽して双葉が展開した瞬間から、管理を劇的に変える必要があります。
- 光の確保: 発芽直後から、植物は光合成を始めようとします。ここで光が弱いと、エネルギーを求めて茎だけをひょろひょろと伸ばしてしまいます(徒長)。発芽を確認したら、すぐに植物育成用LEDライトなどを使い、十分な光量(PPFD)を与えてください。ただし、直射日光はいきなり当てると強すぎて焼けてしまうことがあるので注意が必要です。
- 湿度の順化: いつまでも蓋をして密閉したままだと、カビのリスクが高まり、苗も軟弱になります。双葉が開いたら、蓋を少しずらして外気を取り入れ、数日かけて徐々に蓋を外していきます。これを「順化(じゅんか)」と呼びます。
難しいと感じる徒長の原因と対策
「せっかく発芽したのに、モヤシのようにヒョロヒョロと長く伸びて倒れてしまった…」
これは「徒長(とちょう)」と呼ばれる現象で、実生初心者が最も直面しやすい失敗です。一度徒長してしまった茎は、二度と元に戻ることはありません。原因は主に「光不足」と「風不足」の2点に集約されます。

光不足と植物ホルモン
植物は光を感じるセンサーを持っており、光が不足していると判断すると、植物ホルモン(オーキシンなど)の働きにより、「光を求めて上へ上へと伸びる」成長モードになります。これが徒長の正体です。特に室内栽培では、人間の目には明るく見えても、植物にとっては「暗闇」同然であることが多いため、育成ライトの導入が強く推奨されます。
風不足と接触形態形成
意外と知られていないのが「風」の重要性です。自然界では、植物は常に風に吹かれています。風に揺られる物理的な刺激は、植物体内でエチレンの生成を促し、茎を太く、短く、丈夫にする効果があります(接触形態形成反応)。風がない無風状態の室内では、この刺激がないため、ひょろ長く育ってしまうのです。
サーキュレーターの活用
発芽して蓋を外したら、24時間サーキュレーターの微風を当て続けましょう。風による物理的な刺激と、葉からの蒸散促進効果が、ガッチリとした太い株(引き締まった株)を作ります。「風こそが植物をデザインする」と言っても過言ではありません。
観葉植物のサーキュレーターの当て方!距離や時間の正解を徹底解説
通販で種を購入する際の注意点
最近はフリマアプリや海外のECサイトで、誰でも手軽に希少植物の種が買えるようになりました。しかし、残念ながら悪質な詐欺も横行しています。
よくあるのが、「レインボーローズ」や「蛍光色の多肉植物」「真っ青なアガベ」など、Photoshopや生成AIで作られた架空の植物の種です。これらは生物学的にあり得ない色をしており、購入しても雑草の種(クローバーなど)が届くだけです。「種子詐欺」に遭わないためには、あまりに安すぎる商品や、評価レビューが不自然な日本語のアカウントからは購入しないことが鉄則です。
また、自分で海外サイト(eBayなど)から輸入しようと考えている方は、法律にも注意が必要です。
- 植物検疫法: 全ての植物種子の輸入には、輸出国政府機関が発行した「植物検疫証明書(Phytosanitary Certificate)」の添付が義務付けられています。これがない種子は、日本の税関で発見された時点で廃棄処分となります。
- ワシントン条約(CITES): 絶滅危惧種を守るための条約です。アガベやサボテンの一部は、商取引が禁止されていたり、輸出許可書が必要だったりします。知らずに輸入すると処罰の対象になることもあります。
安全に購入するためには、信頼できる国内の専門店(シードストックさんなど有名店)や、SNS(InstagramやTwitter)で実際に「播種しました」「発芽しました」というリアルな報告(実生記録)が多い販売者を選ぶのが最も確実です。レビューの数だけでなく、その中身をしっかりチェックしましょう。
(出典:農林水産省 植物防疫所『植物を輸入する(海外から持ち込む)場合の手続』)
観葉植物を種から育てる楽しみ
ここまで、少し専門的で厳しい話もしましたが、観葉植物を種から育てることは、まるで小さな地球を部屋の中に作るような、クリエイティブで知的な体験です。
種を蒔いても芽が出ないこともあれば、カビて全滅してしまうこともあります。私も数え切れないほどの種をダメにしてきました。でも、その失敗のデータこそが、次の成功への肥料になります。「湿度が足りなかったのかな?」「温度が高すぎたのかな?」と仮説を立て、マダガスカルやメキシコの現地の環境を想像しながら、光や水、風をコントロールする。
そして、数年かけて自分だけの手のひらサイズの巨木(良型個体)を作り上げた時の感動は、何物にも代えがたいものがあります。この「植物との対話」こそが、実生栽培の最大の楽しみ方だと私は思います。ぜひ、あなたも最初の一粒を蒔いて、この奥深い世界への第一歩を踏み出してみてください。


